看護学

看護学とは?

看護学は、人々の健康と生活を支え、病気や障害があってもその人らしく暮らせるようにする方法を科学的に研究する学問です。
看護というと、病院で患者の体温や血圧を測ったり、医師の診療を補助したりする仕事を思い浮かべるかもしれません。しかし、看護学が研究する範囲は、それだけではありません。
病気の予防、健康の維持、療養生活の支援、心のケア、家族への支援、地域での健康づくりなど、人の一生に関わる幅広い課題を扱います。
たとえば、次のような疑問を考えます。

  • 病気の患者が安心して療養するためには、何が必要なの?
  • 痛みや不安を和らげるには、どのようなケアが効果的なの?
  • 高齢者が住み慣れた自宅で暮らし続けるには、どのような支援が必要なの?
  • 赤ちゃんや子どもの健康と発達を、どのように支えればよいの?
  • 患者と家族の気持ちを理解し、信頼関係を築くにはどうすればよいの?
  • 感染症を予防し、安全な医療環境をつくるにはどうすればよいの?

    看護学では、医学や生物学の知識だけでなく、心理学、社会学、倫理学、教育学なども学びます。
    人間を身体だけでなく、心や生活、家族、社会とのつながりを含めて理解することが特徴です。
    人の生命と尊厳を守り、科学的な根拠に基づいて健康と生活を支えることが、看護学の大きな目的です。

看護学では何を研究する?

看護学では、人々の健康状態や生活環境、心の状態などを理解し、よりよい看護ケアや支援方法を研究します。
主な研究内容には、次のようなものがあります。

  • 患者の健康状態の把握
    身体の変化や症状を観察し、必要な看護を判断する方法を研究します。
  • 痛みや苦痛の軽減
    痛み、息苦しさ、不眠、不安などを和らげるためのケアを研究します。
  • 病気の予防と健康管理
    生活習慣病や感染症の予防、健康を維持するための支援方法を研究します。
  • 高齢者の看護
    加齢に伴う身体や認知機能の変化を理解し、自立した生活を支える方法を研究します。
  • 子どもの成長と発達
    子どもの健康や発達を支え、病気の子どもと家族を支援する方法を研究します。
  • 妊娠・出産・育児の支援
    妊娠期から出産後までの母子の健康や、家族への支援について研究します。
  • 精神的な健康の支援
    ストレスや精神的な不調を抱える人への看護やコミュニケーションを研究します。
  • 在宅療養の支援
    病気や障害があっても、自宅や地域で安心して暮らすための支援を研究します。
  • 家族への支援
    患者を支える家族の負担や不安を理解し、適切に支援する方法を研究します。
  • 感染予防と医療安全
    医療関連感染や転倒、薬の投与に関する事故などを防ぐ方法を研究します。
  • 看護技術の効果
    清潔ケア、体位変換、排泄支援などの方法と、その効果を研究します。
  • 看護師の働く環境
    看護師の負担やチーム医療、看護の質を高めるための職場環境を研究します。

    看護学では、実験や観察、アンケート、インタビュー、医療データの分析など、さまざまな方法を用います。
    患者の身体だけでなく、心や生活を含めて理解し、よりよいケアの方法を科学的に明らかにすることが特徴です。

看護学にはどんな分野がある?

看護学には、対象となる人の年齢や健康状態、生活環境などに応じて、多くの専門分野があります。

基礎看護学

看護の基本的な考え方や技術、患者との関係づくり、看護過程などを研究します。

成人看護学

成人期の人々の健康問題や、病気の治療・回復を支える看護を研究します。

老年看護学

高齢者の身体や心の変化を理解し、生活機能や生活の質を維持するための看護を研究します。

小児看護学

乳幼児から思春期までの子どもの健康と発達、病気の子どもと家族への支援を研究します。

母性看護学

妊娠、出産、産後の女性や新生児の健康、家族への支援などを研究します。

精神看護学

精神的な健康問題を抱える人への看護や、心の健康を支える方法を研究します。

在宅看護学

自宅で療養する人や家族への支援、訪問看護、地域の医療・介護との連携などを研究します。

地域・公衆衛生看護学

地域住民の健康づくりや病気の予防、健康格差への対応などを研究します。

急性期看護学

急な病気やけが、手術などによって健康状態が大きく変化した人への看護を研究します。

慢性期看護学

糖尿病や心臓病など、長期的な健康管理が必要な人への支援を研究します。

がん看護学

がん患者の身体的・精神的な苦痛を和らげ、治療や療養生活を支える方法を研究します。

緩和ケア看護学

重い病気による苦痛を和らげ、患者と家族の生活の質を高めるための看護を研究します。

看護管理学

看護組織の運営や人材育成、看護の質、安全管理などを研究します。

看護教育学

看護学生や看護職の学習方法、教育制度、専門職としての能力開発などを研究します。

これらの分野は互いに関係しており、大学によって名称や分類が異なる場合があります。
たとえば、高齢のがん患者が自宅で療養する場合には、老年看護学、がん看護学、緩和ケア看護学、在宅看護学などの知識を組み合わせます。

大学では看護学をどのように学ぶ?

大学の看護学部や看護学科では、一般的に4年間で看護に必要な知識と技術を学びます。
医学的な知識だけでなく、人間の心理や社会、倫理、コミュニケーションなども学び、病院や地域での実習を通して理解を深めます。

1年次|看護と人間の基礎を学ぶ

解剖生理学、生物学、心理学、看護学概論などを学びます。
身体の仕組みや健康の基本、看護の役割について理解します。
また、基本的なコミュニケーションや看護技術の学習も始まります。

2年次|病気と看護の専門知識を学ぶ

病理学、薬理学、疾病・治療論、基礎看護技術などを学びます。
成人看護学、老年看護学、小児看護学、母性看護学、精神看護学などの専門分野にも取り組みます。

3年次|専門的な看護と臨地実習を学ぶ

さまざまな健康状態の患者に対する看護を学びます。
病院や地域などでの臨地実習を通して、患者の状態を観察し、看護計画を立て、ケアを実践する力を養います。

4年次|看護の統合と卒業研究

これまでに学んだ知識と技術を統合し、より実践的な看護を学びます。

看護研究や卒業研究に取り組む大学もあります。
また、看護師国家試験に向けて学習を進めます。
大学卒業後、所定の受験資格を満たして看護師国家試験に合格し、免許を取得することで看護師として働けます。
なお、保健師や助産師の国家試験受験資格を得るための課程が設けられている大学もありますが、履修条件や修業年限は大学・課程によって異なります。
看護学では、身体と心の仕組みを学ぶ → 看護の知識と技術を身につける → 実習で実践する → 科学的に考え、判断する力を養うという流れで学習を深めます。

看護学ではどんな授業・実習をする?

看護学では、講義だけでなく、実際の看護場面を想定した演習や、病院・地域での臨地実習が重要な学習となります。

解剖生理学

人体の臓器や筋肉、神経、血液循環などの仕組みを学びます。

疾病・治療論

さまざまな病気の原因や症状、検査、治療方法などを学びます。

基礎看護技術演習

体温や血圧の測定、清潔ケア、移動支援など、看護の基本的な技術を学びます。

フィジカルアセスメント

身体の観察や測定を通して、健康状態を把握する方法を学びます。

看護過程演習

患者の情報を整理し、必要な看護を考え、計画・実施・評価する方法を学びます。

コミュニケーション演習

患者や家族の話を聴き、信頼関係を築くための方法を学びます。

成人看護学実習

成人期の患者を対象に、病気の治療や回復を支える看護を学びます。

老年看護学実習

高齢者の健康状態や生活機能を理解し、その人らしい生活を支える方法を学びます。

小児看護学実習

子どもの成長や発達に応じた看護と、家族への支援を学びます。

母性看護学実習

妊娠・出産・産後の女性や新生児への看護を学びます。

精神看護学実習

精神的な健康問題を抱える人への理解と、適切な関わり方を学びます。

在宅看護学実習

訪問看護などの現場で、地域で暮らす療養者と家族への支援を学びます。

シミュレーション演習

患者の状態が変化した場面などを想定し、観察、判断、対応を練習します。

看護研究

看護に関する疑問を研究課題として設定し、文献や調査結果などを分析します。

看護学では、知識を覚えるだけでなく、相手の状態を理解し、安全で適切な看護を考え、実践する力を身につけます。

看護学ではどんな研究が行われている?

看護学では、患者の健康や生活を支えるために、さまざまな研究が行われています。

患者の痛みを和らげる研究

痛みの評価方法や、薬物療法と組み合わせた看護ケアなどを研究します。

高齢者の転倒予防研究

転倒の危険因子や、病院・施設・自宅での転倒予防方法を研究します。

認知症の人への看護研究

認知症の人の行動や気持ちを理解し、安心できる生活環境やケアの方法を研究します。

がん患者の生活の質に関する研究

治療による身体的・精神的な負担を軽減し、生活の質を高める方法を研究します。

在宅療養支援の研究

病気や障害があっても、住み慣れた地域で暮らし続けるための支援方法を研究します。

小児看護の研究

入院中の子どもの不安を和らげたり、家族の負担を軽減したりする方法を研究します。

妊産婦への支援研究

妊娠・出産・育児に伴う心身の変化や、産後の健康を支える方法を研究します。

精神的な健康の研究

ストレスや不安を抱える患者へのコミュニケーションや心理的支援を研究します。

感染予防の研究

医療関連感染を防ぐための手指衛生や環境管理などの方法を研究します。

睡眠と療養環境の研究

病院での音や光、ケアの時間などが患者の睡眠に与える影響を研究します。

看護師の負担軽減研究

看護師の身体的・精神的な負担を軽減し、安全な職場環境をつくる方法を研究します。

看護とAI・情報技術の研究

AIや情報システムを活用して、患者の状態把握や看護業務を支援する方法を研究します。

家族看護の研究

患者の家族が抱える不安や負担を理解し、適切に支援する方法を研究します。

看護学の研究では、数値データを分析する量的研究と、インタビューなどを通して人々の経験や思いを理解する質的研究の両方が活用されます。
人々の健康や生活に関する疑問を科学的に調べ、よりよい看護につなげることが、看護研究の目的です。

看護学とつながる学問

看護学は、人間の身体や心、生活、社会を総合的に理解するため、多くの学問と関係しています。

医学

病気の原因や症状、検査、治療方法などを理解するために関係します。

薬学

薬の作用や副作用、安全な投与方法などを理解するために関係します。

生物学

細胞や臓器、生命現象などの仕組みを理解するために関係します。

心理学

患者や家族の感情、不安、ストレス、行動などを理解するために関係します。

社会学

家族や地域社会、社会制度などが健康や生活に与える影響を考える際に関係します。

社会福祉学

高齢者や障害のある人、生活上の困難を抱える人への支援を考える際に関係します。

リハビリテーション学

身体機能や生活機能の回復、自立した生活を支える方法を考える際に関係します。

栄養学

患者の栄養状態や食事支援、健康管理などを考える際に関係します。

公衆衛生学

地域の健康づくりや感染症予防、健康格差などを研究する際に関係します。

教育学

患者への健康教育や、看護職の教育方法を研究する際に関係します。

情報科学

電子カルテや医療情報システム、AIを活用した看護支援などに関係します。

倫理学

患者の自己決定や尊厳、医療現場での倫理的な問題を考える際に関係します。
たとえば、

  • 高齢者の在宅療養 = 看護学 × 医学 × 社会福祉学
  • 認知症の人への支援 = 看護学 × 心理学 × リハビリテーション学
  • がん患者の緩和ケア = 看護学 × 医学 × 薬学
  • 地域の健康づくり = 看護学 × 公衆衛生学 × 社会学
  • 看護とAI = 看護学 × 情報科学 × データサイエンス
  • 患者の意思決定支援 = 看護学 × 倫理学 × 心理学

    というように、複数の学問を組み合わせることで、人々の健康と生活を多角的に支える方法を研究できます。

看護学をちょっと体験してみよう

看護学では、相手の身体や心の状態を観察し、必要な支援を考えることが大切です。
身近な生活の中でも、看護学の基本的な考え方を体験できます。

テーマ:安心して過ごせる環境を考えてみよう

病院や自宅で療養する人にとって、周囲の環境は安全や快適さに大きく関係します。
今回は、身近な部屋を観察し、安全で過ごしやすい環境について考えてみましょう。

調べてみよう

  1. 自宅の部屋を一つ選ぶ。
  2. 床に転びやすい物が置かれていないか確認する。
  3. 照明の明るさや、室内の温度を確認する。
  4. 椅子やベッドから立ち上がるときに、危険な場所がないか考える。
  5. 安全で快適に過ごすための改善案をまとめる。

考えてみよう

  • 高齢者が生活する場合、どのような場所に注意が必要だろう?
  • 体調が悪い人にとって、室内の温度や明るさはどのような影響があるだろう?
  • 夜間にトイレへ移動するとき、どのような危険が考えられるだろう?
  • 安全性だけでなく、本人の希望や生活習慣を尊重するにはどうすればよいだろう?
  • 同じ部屋でも、利用する人によって必要な工夫は変わるだろうか?

    看護学では、危険を減らすことだけでなく、本人が安心して自分らしく生活できることも大切にします。
    相手の立場になって生活環境を観察し、安全と快適さを考えることが、看護学を学ぶ第一歩です。

看護学からつながる職業

看護学で学ぶ身体や心の仕組み、健康管理、生活支援などの知識は、医療や福祉、教育、研究などのさまざまな職業につながります。

看護師

病院や診療所、訪問看護ステーションなどで、患者の療養生活を支え、診療の補助などを行います。

保健師

地域住民や働く人々の健康を守るため、健康相談や保健指導、疾病予防などに取り組みます。

助産師

妊娠・出産・産後の女性や新生児への支援を行い、母子の健康を守ります。

訪問看護師

利用者の自宅を訪問し、健康状態の観察や医療的ケア、療養生活の支援を行います。

学校で働く看護師

学校などで、医療的ケアが必要な子どもの健康管理や支援に携わります。

産業保健分野の看護職

企業などで、働く人々の健康管理や健康相談、職場の健康づくりに関わります。

治験コーディネーター

新しい医薬品などの臨床試験が円滑に進むよう、研究参加者や医療関係者を支援します。

医療安全管理に関わる看護職

医療事故の予防や安全対策の改善などに取り組みます。

看護管理者

看護部門の運営や人材育成、看護の質の向上などに取り組みます。

看護研究者

大学や研究機関で、看護ケアや患者の生活、医療・福祉の課題などについて研究します。

大学教員

看護系大学などで、看護学の教育や研究を行います。

医療・ヘルスケア関連企業の職員

医療機器や健康管理サービスなどの開発、教育、情報提供に携わる場合があります。

看護学は、病院で働くためだけの学問ではありません。
地域医療、在宅療養、学校、企業、行政、研究機関など、人々の健康と生活を支えるさまざまな分野につながります。
なお、看護師・保健師・助産師はそれぞれ国家資格であり、資格ごとに定められた教育課程や国家試験などの要件を満たす必要があります。

もっと看護学を知りたい人へ

看護学に興味を持ったら、まずは人々の健康や生活を支えるために、どのような知識や工夫が必要なのかを考えてみましょう。
看護学は、病気の人を支えるだけでなく、健康な人が病気を予防したり、高齢者が自分らしく暮らしたり、子どもが健やかに成長したりするための方法も研究します。
また、看護では科学的な知識と同じくらい、相手の気持ちや価値観を理解することが重要です。
同じ病気であっても、患者の年齢や生活環境、家族構成、希望によって必要な支援は異なります。
さらに学びたい場合は、大学の看護学部や看護学科の授業内容、研究室のテーマ、臨地実習の内容などを調べてみるとよいでしょう。
看護学を学ぶときには、次のような疑問を持ってみてください。

  • 病気の患者が安心して療養するためには、何が必要なのだろう?
  • 患者の身体の変化を、どのように観察して判断するのだろう?
  • 高齢者が自宅で暮らし続けるためには、どのような支援が必要なのだろう?
  • 子どもや家族の不安を和らげるには、どのような関わり方がよいのだろう?
  • 看護の効果は、どのように科学的に確かめるのだろう?
  • 医療技術やAIが進歩すると、看護はどのように変わるのだろう?
  • 患者の希望と安全を両立させるには、どうすればよいのだろう?

    看護学では、人の身体と心、生活環境を総合的に理解し、科学的な根拠に基づいてよりよいケアを考えます。
    看護学の魅力は、一人ひとりの生命と生活に向き合い、科学と人への理解を通して健康と社会に貢献できることです。
    身近な健康や生活への疑問から、看護学の世界を探究してみてください。